「バイデン・ラリー」で株価バブル過熱
それにしても、驚くのは株式市場だ。バイデンが大統領になったらNY株価は下落するとしたアナリスト、メディアが多かったのに、動きはまったく逆になった。
選挙前から、バイデン優勢と伝えられるたびにNY株価は上昇し、先週だけで2000ドル近く上げた。それにつられて(こう言っていいとは思わないが)、日経平均も上がった。「バイデン・ラリー」が始まったのだ。
週明けの9日、NY株価は急騰し、今年2月に付けた史上最高値2万9568ドルを取引中に上回ってしまった。先に開いた日本市場は、先週末より514円61銭高い2万4839円84銭で引けた。一時、600円を超えて値上がりする場面もあり、これで5営業日続けての上昇で、なんと1991年11月以来、29年ぶりの高値となった。
これを、主要メディアは「バイデンが勝利を宣言したことで、市場にひとまず安心感が広がったため」としたが、そんな「ウソ」を信じる投資家はいない。ただのバブルだ。
ただし、最大の買い手は日銀だから、行く末が恐ろしい。
アメリカも日本も、新型コロナの感染が再び拡大している。日本では北海道の感染者が1日200人を超え、アメリカでは毎日10万人近くが感染し、感染者総数が1000万人を超えようとしている。この状況で、株価が上がるのは、世界中が異常な金融緩和をしているからにすぎない。中央銀行がバブルをつくっているのだ。
現在、FRBは、史上ありえない規模で緩和を行なっている。トランプに恫喝され続けてきたFRBは、すでに9月の「FOMC」(連邦公開市場委員会)で、少なくとも2023年末まで物価上昇率が2%に到達しなければ利上げをしないと表明。バブルに拍車をかけている。
この状況は、バイデンになっても変わらないだろう。バラマキを得意とするリベラルだけに、異常な緩和は維持される。その結果、格差はさらに広がり、アメリカの“分断”は続いていていく。
心配な菅首相の“ワシントンDC詣で”
菅義偉首相は、9日午前、バイデンの当確報道を受けて、ツイッター上で「心よりお祝い申し上げる」と祝意を表明した。さらに、官邸で記者団に対して同じことを述べ、今後、バイデンとの電話会談やアメリカ訪問の時期を調整していく考えを示した。
このなかで菅総理大臣は、「改めてバイデン氏、副大統領候補のハリス氏に心よりお祝い申し上げたい。日米両国は、自由、民主主義、普遍的価値観を共有する同盟国だ。日米同盟をさらに強固なものにするために、そして、インド太平洋地域の平和と繁栄を確保していくために、アメリカとともに取り組んでいきたい」と述べた。
まったく、当たり障りのない、なんの意味もない祝意表明である。だからなんだと言われると困るが、菅首相には不安がいっぱいだ。
はたして、トランプがぐちゃぐちゃにし、民主党がそれに拍車をかけて分断化が進んだアメリカと、今後うまくやっていけるだろうか。これほど、国際性のない首相は初めてだから、国民の不安は募る。
誰が大統領になろうと、「宗主国と属国」という状況は変わらない。菅首相は早々に“ワシントンDC詣で”をして、バイデン大統領に謁見しなければならない。
そのときに、電話を「テルテル」と言ってしまうとか、ASEAN(アセアン)をアルゼンチンと読み間違いをしてしまうとか、そんなことがないように、くれぐれも気をつけてほしいものだ。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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